事業内容

研究成果報告会

平成30年9月11日、贈呈式に先立ち第10回研究成果報告会が開催されました。2分野からの報告となり、まず、自然科学分野から熊本大学大学院生命科学研究部老化・健康長寿学分野三浦恭子准教授(平成26年度助成先)により「長寿齧歯類ハダカデバネズミがもつ老化耐性・がん化耐性の仕組み」をテーマとした報告が、続いて社会福祉分野から同志社大学社会学部永田祐教授(平成27年度助成先)により「越境する地域福祉実践 滋賀の縁創造実践センターとの実践研究」をテーマとした報告が行われました。

三浦先生 永田先生
三浦先生 永田先生

報告会レポート

報告会では、佐藤自然科学選考委員長の挨拶のあと、渡邉常務理事より三浦准教授、永田教授が紹介された後、お二人から、約1時間半にわたり成果報告及び質疑応答が行われ、最後に水田社会福祉選考委員長の講評が行われました。

佐藤委員長挨拶 水田委員長講評
佐藤委員長挨拶 水田委員長講評
報告会風景 質疑応答
報告会風景 質疑応答

三浦先生報告要旨-長寿齧歯類ハダカデバネズミがもつ老化耐性・がん化耐性の仕組み

 ハダカデバネズミ(Naked mole-rat, NMR)は、エチオピア・ケニア・ソマリアの地下に生息する齧歯類である。昆虫のアリやハチに類似した分業制社会を持ち、地下にトンネルからなるコロニーを形成して集団生活を営む。マウスと同等の大きさながら約10倍の寿命を有し(平均寿命28年)、これまでに腫瘍形成がほとんど認められていないがん化耐性が特徴だ。さらに地下の約7%の低酸素環境へ適応しており、哺乳類でありながら低体温(32度)かつ外温性(外気温に体内温を依存)という珍しい特徴を併せもち、近年研究対象として注目を集めている。
 これまでに、ハダカデバネズミの抗老化・抗がん化・社会性のメカニズムの解析のため、NMR-iPS細胞の樹立や3D MRI脳アトラスの構築、各種臓器における遺伝子発現情報の整備など基礎的な研究基盤を確立してきた。次に、樹立したNMR-iPS細胞の解析を進めた結果、興味深いことに、がん化耐性齧歯類ハダカデバネズミから樹立したiPS細胞は、in vitro での三胚葉への多分化能を持ち長期継代維持が可能にも関わらず、マウスやヒト由来のiPS細胞と異なり、未分化状態で移植された場合の造腫瘍性(奇形腫形成能)をもたないことを見出した。そこでNMR-iPS細胞の腫瘍化耐性を規定するメカニズムに関して解析を行ったところ、動物種特異的ながん抑制遺伝子ARFの発現維持機構とがん遺伝子ERasの機能欠失により、腫瘍化耐性能が制御されていることが判明した。また、個体の老化耐性に寄与すると考えられる、細胞老化に対する特異な応答性が明らかになってきている。
 平成30年3月には、熊本大学に約1500匹を飼育できる大型の飼育施設が完成した。今後は、より効率的な繁殖技術の確立を目指しながら、ハダカデバネズミのモデル動物化に向けて、一層研究基盤を充実させていく。

永田先生報告要旨-越境する地域福祉実践 滋賀の縁創造実践センターとの実践研究

 現在、日本では、一つの家族の中で複数の問題が折り重なって生活に困窮したり、それが容易に予見されるようなケースが増加している。こうした問題は、たまたまそうした不幸な家族があるということではなく、家族の規模が縮小し、職住分離がますます進み、グローバル化によって雇用環境が大きく変化する中で、中間集団とうまくつながれずに、複数の不利が重なることで社会の周縁に追い込まれてしまう社会的孤立の問題が深刻になっていることを示しているといえる。一方、家族や地域、日本型雇用を前提に、対象者別に縦割りに組織されてきた社会保障や社会福祉は、こうした制度のはざまや複数の課題を抱えた家族の問題に十分に対応できない。ある専門職は、気づいた課題に蓋をせざるを得ない経験を「埋め戻す」と表現し、そうした経験をいくつもしてきたと語ってくれた。
 滋賀の縁創造実践センターは、こうした課題を解決していくために、滋賀県の民間の社会福祉関係者が作り出したプラットフォーム型の組織であり、分野を越境して関係者が課題を共有し、創造的な協働実践を作り出していこうという取り組みである。社会的孤立や制度のはざまといった現在の福祉課題を解決していくためには、課題に気づいた人たちが「のりしろ」を出し合って、新たな取り組みを進めていくことが必要であり、本研究では、そのために必要な条件を滋賀の縁創造実践センターの様々な実践のプロセスから明らかにしようとしてきた。居場所のない子どもたちのフリースペースを運営する高齢者施設、児童養護施設で暮らす子どもたちの社会への架け橋として、就労体験に取り組む中小企業など、様々な取り組みを進めている関係者へのインタビュー調査の結果、①気づいた課題を持ち込める「場」の存在、②放っておけない課題を知ることで「心が動かされる」経験、③柔軟に活用できる民間財源の存在、そして④こうした志が出会う場をコーディネートする「地域福祉の事務局」の存在が、越境する地域福祉実践の条件であることを明らかにすることができた。
 報告会では、申請段階から様々な形でご支援をいただいた三菱財団様への謝意と、「越境する地域福祉実践」(全国社会福祉協議会、2018)として成果を出版することができたことも併せてご報告させていただいた。

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